• 2013年11月28日

特定秘密保護法案について

特定秘密保護法案の審議が参院に移りました。

ここまで、国民の十分な関心と議論は盛り上がらず来てしまった感があります。

その背景には、ほとんどの国民がこの法とは無縁で、法が適応されて処罰の対象となり得るのが公務員だ、という感覚があります。

またこの法案の問題点としてよく言われる「知る権利」についても、

「別に一から十まで自分は知らなくてもいい」とか、

「秘密にする必要があって秘密にするのだろうから、それはそれで国の利益を守るために必要なことなのだろう」

といった、国民自らその権利を求めないような部分があるのではないかという気がします。

しかし多くのジャーナリストや科学者・文学者等の人々が反対しているのが実態で、果たしてその理由は何なんだろうということを考えてみる必要があると思います。

さて11月14日、柏崎市に日弁連秘密保全対策本部事務局次長 斎藤裕弁護士をお迎えし、特定秘密保護法案とはどのような法案で、これが法として成立すると社会はどのようになるかについてお聞きする会が開かれました。

以下、斎藤弁護士の講演を要約します。

 

■特定秘密保護法制定の背景

・官僚が秘密保全法制制定を進めてきた第一の理由は、日米間のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)で、これは、一方が他方に軍事秘密を提供した時、両国間で秘密保護措置をとることを義務付けるという協定があるからである

・現在の法の下では、秘密漏えいに対する処罰の程度が、国家公務員法などにより懲役1年であり、これは非常に軽すぎる内容だということで、秘密保護法を制定して5年から10年の懲役刑に処せることを可能にしようとしている

・しかし現状の懲役1年でも使いきれていないのが実態である。つまり「処罰に値するような事例が非常に多く、懲役1年では軽すぎる」という状況では全くない

・なぜ10年が必要か?と言えば、米が日本と一緒に戦争をするために日本と情報を共有したいが、1年だと心もとないと言っているからだ

 

■一般国民は関係ない?

・現在の法案の内容だと、非常に広い事柄が処罰の対象になる恐れがある

・例えば、その事案が特定秘密であれば漏えいさせた者だけでなく、漏えいさせようとした者も対象となる。マスコミの記者が公務員に対し情報を出してほしいと取材するようなケースも対象ということになってしまう

・また政府に対し説明を求めるような活動も、その出せという情報が特定秘密なら対象となることになる

・一応政府は「情報を出せという方法が悪質でなければ処罰の対象とはならない」とは言っている

・しかし「もしかしたら処罰の対象となってしまうかもしれない」と思えば、人間は委縮するものだ

 

■特定秘密の範囲は非常に広くなる恐れがある

・特定秘密の範囲は4分野で、防衛、外交、外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止、テロ活動防止である

・防衛については:自衛隊の活動や組織に関する情報のほとんどの全て

・外交については:安全保障に関するものに限定されてはいるが、ここで言う安全保障とは軍事的安全保障だけでなく経済的安全保障も含まれると考えられ、結局は外交に関わる情報のほとんど全てが対象とされるであろう

・テロ活動防止については:どのような行為をテロ活動防止と見るかは政府の考え方次第である。例えば、原発の安全性というような情報であっても「テロ活動防止」に関わる情報とされることも十分考えられる

・以上のようなことから、特定秘密の範囲は国民に知られるとまずい情報を特定秘密に指定してしまうことは大いにあり得る

・このように何が特定秘密になっているのかが分からないので、(処罰を恐れて)内部告発や取材は極めて行われにくくなるであろう

・もう一つの重要な問題点は、特定秘密の指定がちゃんと行われているか誰もチェックできないということである

(国会の議論では、第三者機関の設置を求める野党議員に対して、「傾聴に値する」といった答弁にとどまったようだ)

・このようなことから、国政に関する重要な情報が容易に国民の目から隠されることになりやすい社会となってしまう

 

■適正評価制度とは

・法案の枠組みの一つが「適正評価」で、特定秘密を取り扱う業務を行うことが見込まれる行政機関の職員や契約業者の役員・都道府県警察の職員の個人情報について、その者が情報を漏らす恐れがないかという観点で調べるもの

・調査される事項には、精神疾患に関する事項や、飲酒に関する節度に関すること、信用状態その他経済的な状況に関することなどということも含まれている

・例えばうつ病などの精神疾患になった者も、調査を気にして通院をためらうなどということも考えられるのではないか

・いずれにしても、職員や親族など広く国民がプライバシー侵害の調査対象となることが危惧される

 

このような内容の説明を聞いても、即座には「本当にそんな風になっちゃうの?」と思ってしまう人は私だけではないのではないか。

一たび法が制定されてしまうと、国会でさえ秘密指定などに関わることができなくなってしまうという内容の法案を、今会期成立に非常にこだわって成立を急ぐのか。

どうしても守らなければならない秘密の保護の必要性ということを言いながら、実は、きつく国民を統制する社会を作ることを本当は目指しているのか、ということを知りたくなります。

私のこの質問に対して講師は次のように答えました。

「現段階で、日本をそのような統制国家にしようなどとは考えていないのかもしれない。しかし政治家たちは、完全に官僚に乗せられているのだと思う。

例の外務省による高価ワイン購入の事案を思い出してほしい。官僚とはあのようなことでも、できれば秘密にしておきたいと考えるものなのだ。

些細なことであっても批判の対象となり得ることは秘密にしたいと常に考えている。

米が秘密保護法制が必要と言っているということを理由に、それが官僚の思惑と一致していると見るべきではないか。」

決して多くの国民は関係ない、というものではないということです。