- 2013年09月01日
東北農業経済学会に参加
8月23日~24日、東北農業経済学会の総会が福島市(福島大学)で開催されました。
東北農業経済学会は、東北地方(新潟県を含む)における経済学研究者相互の協力をはかり、併せて諸研究機関及び団体間の連絡を図ることを目的とした組織です。
今年の総会は「原子力災害と福島県農業・農村・農協」をテーマに開催。
原子力災害に伴う放射能汚染問題、風評被害問題に取り組む福島県の様々な取り組みをベースに現状と課題を分析し、福島県農業・農村・農協の再生の方向性を検討することを目的にシンポジウムや個別報告を行いました。
第一報告では、福島県農林水産部が、福島県農業の再生の取り組みを報告。
・ 津波被災農地(5,460㌶)のうち、営農再開可能面積は1,350㌶で復旧率25%である
・ 被災農業経営体17,200経営体のうち、営農再開経営体数は10,100経営体で再開率59%
・ 福島県では「営農再開支援事業」を開始(230億円の基金事業)
・ 平成29年度末までの再開率6割を目指す
・ 第一段階として除染後農地の保全管理、鳥獣被害防止緊急対策、放れ畜対策などを実施、第二段階として営農再開に向けた作付け実証、避難からすぐに帰還しない農家の農地を管理耕作する者への支援などを実施、第三段階として新たな農業への転換を支援する
・ また平成23年度から、県産食品の安全・安心を確保する取り組みとして、米の全量全袋検査、果樹・野菜の主要産地や直売所での自主検査、加工食品検査などを行い情報提供している
などの報告を行いました。
第二報告は、放射能汚染対策と農業政策と題し東京農業大学 門間敏幸氏が報告。
・ 東京農大・相馬プロジェクトを実施
・ 農業経営チーム、風評被害対策チーム、土壌肥料チーム、農地復元チーム、作物栽培法チームなど各専門分野の担当者が必要に応じ農家を支援する
・ 平成23~25年度まで様々な事業を実施したが、相馬市玉野地区において「土壌の放射性物質モニタリングシステム」を開発
・ 646筆 123haのほ場を調査した。結果、東玉野地区では平成24年の土壌放射性物質濃度4,050ベクレル/㎏が平成25年は3,213ベクレル/㎏になるなど効果が見られた。しかし空間線量はなかなか下がらない
・ 福島県農業が復興するには、作付けを制限せず(制限すると短期間でほ場が荒れる)、安全な農産物を出荷し続けることが必要
・ そのためには、自分のほ場がどの程度汚染されているのか、除染の効果がどの位あらわれているのか、どの作物を生産すればよいかなどを知ることが必要
だとしました。
第三報告は、風評被害と消費行動と題し、東洋大学 関矢直也氏が報告。
・ 風評被害とは、安全が関わる社会問題で、本来安全とされる食品や商品・土地・企業などを人々が危険視し、消費や観光をやめることによって引き起こされる経済的被害 =「うわさ」とは区別して考えるべき
・一般的な風評被害対策は:①忘却・同じ分量の報道や広告、②放射線検査と証明、③正確な情報、④補償と補償に関するサポート
・風評被害は、防ぐことや単純な回復は無理
・ 風評被害の発生原因を詳細に把握することが重要
・消費者の意識調査を行ってみると… 2~3割は強硬な拒否層。長期的にはこの層を減らすことは重要だが、風評被害対策としては困難
・ 対策①:県内・県外の消費者のロジックを別に考える。福島県内の消費者は地理的特性を知った上での不安であるのに対し、県外者は地理も知らないで不安に感じている
・ 対策②:モニタリングや検査体制は、「結果」よりも「行われている」ことが重要。「行っていること」を知らせていく。消費者は基準値を正確には理解していない。
・ 対策③:購買層ターゲットの見極め。「積極的購買者」復興のために積極的に買おうとする購買層は、キャンペーンの如何に関わらず買い支えてくれる層。
「積極的非購買層」は、キャンペーンの効果は薄い。
「消極的非購買層」=物言わぬ多数派であり、何となく不安感を持っている人たち。購買者になってくれる可能性がある人たちである、などと提言しました。
東日本大震災・原発事故の被災した福島県では、大学などの研究機関の支援や地元自治体の復興施策により農業の復興について努力されていますが、大きな課題を抱えたまま推移している現状を理解しました。
最も大きな課題は「担い手」。放射能に汚染された農地での営農は容易ではないことに加え、他の地域に避難している農家が多く、耕作者のいない農地を当面どのように守るかが大きな課題です。
研究者の方々は、結局は震災前の農業者数に戻ることは期待できないため、営農を始めた農家に非常に多くのほ場が集まることに対し、どのように支援するかが重要だと強調していました。
議論はされなませんでしたが、農業技術を持つ被災者が、避難した先でどのように技術を活かしていくかといった視点も重要ではないかと感じました。