- 2012年02月08日
社会保障はどうあるべきか~神野直彦氏の講演~
2月6日(月)、7日(火)と東京都の砂防会館において、地方財政セミナーが開催さ
れました。このセミナーは、地方財政計画が策定・決定されるこの時期に、自治労
と自治体議員連合の主催で毎年開催されているものです。
翌年度の地方財政計画や税制について、いち早く情報を得ることができるとして、
多くの受講申し込みがあるセミナーで、今回も450人もの受講者が全国から集ま
りました。
今年のセミナーの目玉的講師は、なんと言っても神野直彦さんでしょう。受付で
配布されたレジュメを見て、神野先生の講演があることを知ってすごくワクワクして
講演を待ちました。東京大学名誉教授の神野氏さんの専門は、財政学・地方財政論。
地方財政審議会会長や地域主権戦略会議議員、税制調査会専門家委員会委員長など
を歴任されています。セミナーでの講演の演題は「今後めざすべき地方税財政・社会
保障のあり方」。わが日本が、今どのような状況にいて、今後はどのような方向に進
むべきか、そのために必要な社会保障とは何か、また社会保障費の支出と一定程度
の経済成長は両立できるか、といった内容の講演をいただきました。
多くの国民が関心を持つ「手厚い社会保障と経済成長は両立するか」というテーマ。
「ある程度は手厚い社会保障政策をとってほしい」、しかしそうすることで、企業が
競争力を失ったり国の財政が破たんするようなことは望まない、社会保障と経済
成長の両立が叶えば一番良いのだが… こんな思いを多くの国民は持っていると
思います。神野氏は次のデータを示し、社会保障費の支出と経済成長率は必ず関係
するとは言えないとしました。
社会保障と経済パフォーマンス
社会保障※1 経済成長率 格差※2 相対的貧困率
フランス 28.4 1.51 0.281 7.1
ドイツ 25.2 1.89 0.298 11.0
日本 18.7 1.59 0.321 14.9
スウェーデン 27.3 2.19 0.234 5.3
イギリス 20.5 1.30 0.335 8.3
アメリカ 16.2 1.82 0.381 17.1
※1:公的社会支出(2007年)のGDP比 ※2:ジニ係数(2000年代半ば)
社会保障費の支出比率が最も高いスウェーデンの経済成長率は、表に示した各国
の中で最も高い経済成長率になっています。また神野氏は貧困率についても指摘。
社会保障費の支出率が低い日本やアメリカは、むしろ貧困率が高く格差が進んで
いると指摘しました。
さて最も興味があるのは、なぜ高い社会保障費の支出を行いながら経済成長も
実現しているのか、という点です。その答えについては、社会的支出の中身だ
と強調しました。鳥取地域連携総合研究センターの水上氏が作成した「社会的
支出の国際比較(2007年 対GDP比率)」によれば、日本・アメリカのように
社会的支出割合が低い国は、年金給付と医療保険給付以外の社会的支出が少な
いことがわかります。
日本とスウェーデンの、社会的支出の種類別対GDP比を比較してみると、
高齢者現物 家族現物 その他
日本 1.45 0.36 2.46
スウェーデン 4.26 1.86 5.38
ここで言う「高齢者現物」や「家族現物」とは、例えば「保育」のような「サービ
ス」になります。神野氏はこれらのサービスによって、これまで家事労働を担って
いた女性たちが十分に働くことができるようになり、産業構造をも変える可能性
が生まれるとしました。
そのそも神野氏が最初に指摘したのは、世界を覆う危機と日本を襲った津波によって
私たちが変わらなければならない時期にしていることは明白であること。「重化学工
業基軸の工業社会からソフト産業基軸の知識社会」に変わらなければならないとい
うことです。そのような社会に変わっていくためには、働き方が変わらなければなら
ず、働き方を変えるには、前述したような現在の日本では貧弱な「家族現物・高齢者
現物」などのサービスが必要だとしたのです。
もう一つ、私が目が覚める思いでお聞きしたのが、それこそが「地域主権の目的では
ないか?そのことをするために地域主権を求めてきたのではないか?」という問いか
けです。私は、何のために地域主権を主張していたのか、その目的をはっきりと自分
の中に描いていなかったと痛感したのです。
政府が語る社会保障は「=年金」であり、「安心できる年金=消費税増税」そのこと
しか語りません。消費税を上げることは、もはや仕方ないと考えている国民は多い
と思います。しかし年金のことだけを言われても、それで安心できる社会になると
実感している人も少ない筈です。また、かつて日本が享受したような、世界の先進国
になることができると信じている人も少ないように思います。
神野氏の講演にあるように、私たちはどのような方向に進まざるをえないのか、まず
はそのことに対する納得をした上で、何に協力しなければならないのかを示してもら
うことが大事なことではないでしょうか。